量産面

 今日は,量産面の話です.着ぐるみ界でも,身長の話題*1 に匹敵するタブーです.DDR で言うなら,バー持ちバーなし論争に相当する話題です.実社会では政治の話題に匹敵するでしょう.相手が公明党に投票するなんて言い出した日にはどうしましょうかねえ.いや,幸福実現党に投票するよりはマシなのかもしれませんが.

 

 おそらく着ぐるみという趣味が夜明けを迎えてから 15 年ほど経ったと思いますが,当初は非常に敷居が高く,始めるのには今以上に勇気と手間のいる趣味だったと聞いています.今でこそ着ぐるみの面を作ってくれる「工房」というものがありますが,当時はそれすらなく,自作するしかなかったそうです.やがて「工房」というものができはじめます.欲しいと思う人からの依頼を受け,面を作ってくれるちょっとした業者のようなものの誕生です.ただ,その発注方法は分かる人にしか分からない,知る人ぞ知るような状態で難解だったそうです.今でも古い工房はフリーメールを受け付けないという堅物の職人か,あるいは Web1.0 の時代を彷彿とさせるシステムを採用しているそうです.また発注方法がある程度確立されてきても問題があります.それは値段と納期です.このアニメまたはゲームのこのキャラクターを作ってください,という依頼を出した場合,値段は大卒の初任給くらい,納期は 1 年以上と,たとえ発注ができても険しい道のりでした.

 そこで,量産面というものが誕生します.これは,工房があらかじめ用意してあるオリジナルのキャラクターの金型を流用して面を作るというものです.これによって安価*2 で比較的短い納期で自分の着ぐるみを手に入れられることになりました.こうして着ぐるみという趣味への新規参入の障壁は大幅に引き下げられることになったのです.

 

 ところが,量産面なわけで,みんな同じ顔になってしまうわけです*3.よほど策略を練っておかないと,没個性の極みになっているわけです.リクルートスーツに身を包んだ就活生は没個性の象徴のように扱われますが,それの非ではありません.なんたって同じ顔なんですから.世間とは遠くかけ離れたぶっ飛んだ趣味なのに,没個性に埋没するとはなんたる皮肉でしょうか.しかも事態を悪化させたのは,敷居が下がった分気軽に始められるわけで,そんな策略を練っておかないと同じ顔の仲間の集団に埋没するという現実をあまりちゃんと認識していない層が,ファッションのようにぽんぽんと始めちゃうわけです.体格がゴリラみたいな人もいるわけで,だんだんイメージが悪化します.そうこうしている間にエア本さんのように量産面の数は殖えてきて,前を向けば量産面,振り向けば量産面みたいな状態になってきて,食傷気味に陥るわけです.集団へのレッテル張りの現象が起き,量産面……ああ……みたいな感情がなんとなく蔓延するわけです.

 

 では,量産面は悪なのでしょうか.一般に「1 人の国宝級に可愛い着ぐるみさんがいたら,29 人のしこれる着ぐるみさんがいて,300 人の有象無象がいる」と言われます.これを着ぐるみ版ハインリッヒの法則と言います.嘘です.今,適当言いました.量産面の功罪は語られることが多いですが,一番の「功」は新規参入の障壁を下げたことであり,これに関して異論を唱える人はいないでしょう.例えば,この新規参入の中にダイヤの原石みたいな人がいるかもしれません.そうした人が次に 29 人のしこれる着ぐるみさん,1 人の国宝級の着ぐるみさんを発注すれば,世の中ハッピーになるわけです.

 学校で,理科や数学などの教育を行うのは,将来研究者になるかもしれないダイヤの原石の発掘に一役を買っているとともに,全体のレベルの底上げにも寄与しています.同様にスポーツクラブなどに行かなくても,部活などで身近にスポーツに触れられる環境が整っているのはいいことです.量産面にもこうした働きがあると考えていいでしょう.

 

 かくいう僕も初めは量産面でした.量産面の話題がタブー視されるのはこういう経歴の持ち主が一定数いるわけで,「今は版権娘迎えたけど,最初は量産面だったわ」みたいな人が,謎の後ろめたさを感じちゃうからなのでしょう.またそういった経歴の人がこう dis るわけにもいかないわけで,なんとなく触れられない話題として扱われているという背景があります.

 

 いつもブログ更新したら Twitter に投げるけど,今回は投げん.怖い.誰もこんな極北のブログわざわざ覗きにこんだろ.

*1:世間とは逆に低い方が有利とされる.

*2:それでも 5−10 万円くらいする.一般の人に話をするとこの金額でも大概驚かれる.

*3:まあ髪の色とかは変えられる