トマト

 トマトは、昔嫌いな食べ物の一つでした。ただ、我が家は、嫌いな食べ物でもとりあえず残さずに食べること、という教育方針でしたので、いやいや食べているうちに苦手意識もなくなり、中学校に上がるまでには普通に食べることができるようになった野菜でした。

 

 一人暮らしになってからは、基本的に食べる野菜のレパートリーというのは著しく狭くなりました。人参と玉葱とキャベツさえあれば、なんとかなるという寸法です。このあたりはレギュラーでして、準レギュラーは不在で、あとは顧問として、小松菜(炒めるとうまい)、ほうれん草、ネギなどがいらっしゃる程度です。特に、野菜をしばらく食べていない時期が続くと、露骨にお通じが悪くなりまして(あとは屁が通常時より臭くなる)、そういうときはとっさにほうれん草を湯がいて食べます。淡色野菜だけでなく緑黄色野菜も取りたいところですからね。緑黄色野菜枠を人参だけに任せるのは、ちょっと酷です。

 

 そんな中で、トマトも一応まあ顧問くらいの立ち位置を築いています。基本的に彼は生で食えてうまいという特長を持っています。さくっと切って、台所で立ったままちゅるっと食ってしまえば、人間としての尊厳が保たれて精神力が上がります。ただ、彼は加熱してもできる子なのです。むしろ生で食うよりも、加熱したほうが彼の良さを活かせる気がします。生だと、ちょっと主張が強いというか、我が道を行く感じですからね、彼。火を通すと、穏やかになります。まさに人材と同じです。そのままでは使えなくても、料理することで彼の居場所を見つけてやるのです。

 

 エキセントリックな料理の腕に自信のある人は、味噌汁などの中にも彼を迎え入れることができるみたいですが、僕は嫌々自炊をするタイプの人間なので、彼をコンソメスープの中に放り込んでやります。コンソメスープのあの固形のやつ、あれは地味にすごいです。味の素すごい。お湯の中に投げ入れて、適当に塩コショウするだけでスープができちゃうんですから、味覇クックドゥに並ぶ現代の魔法です。その中にさいの目切り(包丁下手なのでだいたいぐちゃぐちゃになるが、どうせ自分しか食わないので気にしない)にしたトマトと、任意の大きさに切ったキャベツをぶん投げるとちょっとしたスープに。適当に切ったベーコンまたはウインナーなども共に入れると、さらに徳が積めます。あとは、納豆でも食っとけばよし。ザ・男の料理。あんまりおいしくない! そんなに食べる気しない! 痩せる!! 内臓力高まる!! やった!!!!!!!