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キーリ

 高校の頃は月に2冊くらいのペースでラノベを読んでいました。僕の青春を構成しているものの一つに電撃文庫があると言っても過言ではありません。そのラノベの供給元は、概ね学校の図書室と駅の本屋の立ち読みに限られていました。フリーライド万歳です。今のネットなら叩かれていたでしょう。特に、学校の図書室は借りることを想定されているシステムだからともかく、駅の本屋の立ち読みは褒められた行為とは言えないでしょう。なんせほぼ毎日20分、ライトノベルを前日の続きから読んでいたのですから、よく叩き出されなかったものです。ただ、田舎者の僕は駅からのバスがなかったのです。仕方なく本屋で時間を潰していたのです。その点は許してほしいと思います。

 

 さて、その中でも、やはり心に残るライトノベルというのは何点かあるもので、そのうちの一つが壁井ユカコの『キーリ』でした。『キーリ』は、主人公の少女キーリと、「核」を埋め込まれ不死人となったハーヴェイ、それにラジオに憑依した霊の兵長が3人(2人+1台?)で旅する物語。戦争で荒廃し、発展した科学技術を失った世界を舞台としています。「核」は、戦前の技術を後世に伝える貴重な化石燃料かつ資料で、これを巡って様々な物語が繰り広げられます。ライトノベルにしては比較的珍しく、色気もなく辛うじて主人公は少女であるものの、全体としては土臭く鉄臭い灰色の雰囲気が漂っている小説です。というか、昔のラノベって、わりとそんな感じだった気がするんですけどね。今のラノベってだいたい異世界でハーレムになるじゃないですか。まあ、それもそれでいいと思うんですけど、当時のようなまだ方向性が定まっていない頃に書かれた、大衆小説との峻別が難しいようなライトノベルも面白かったんですけどねえ。

 

 鉄臭い雰囲気とか土臭い雰囲気って実はすごく好きなんですよ。僕が着ぐるみフェチであるということは、ゼロが自然数であることよりも有名ですが、もう一つ僕の地味なフェチとして廃墟があります。と言っても、別に廃墟でシコったり廃墟を被って股間に電マを当てたりしているわけではないのですが。廃墟はいいです。人工物が朽ちていき自然と同化していく過程で、ものは土臭くそして鉄臭くなっていきます。なにより、そこに人の営みがあったということ、そしてそこで再び人の営みが灯ることはないのだろうという不可逆性、すなわち無常観を突きつけられ、どうしようもなく込み上げてくるものが好きなのです。別に廃墟なんか見なくたって、自身が社会人になってしまったという現実を目の当たりにするだけで、吐き気がするほど人生の不可逆性と無常観を考えさせられますが。とにかく、廃墟が好きなのです。中学の頃の卒業発表は軍艦島*1だったほどです。M1のときに、世界遺産となった軍艦島に上陸するツアーに参加し、かくして8年前の夢を叶え、伏線を回収したのでした。ところで、廃墟好きの間で有名なサイトの一つに「廃墟デフレスパイラル」というところがあるのですが、あのどざいさんも愛読していたと知って、奇妙な由縁を感じたのでした。あのどざいさんが、着ぐるみ芸人としてでもピン大生としてでも優秀なサポートとしてでもなく、一サイトの読者として登場させられるのは、おそらく世界初でしょう。

 

 さて、翻ってキーリの話。『キーリ』は、そんな荒廃した世界を舞台に、主人公達が旅をする物語でもあります。旅をするライトノベルと言えば、ほかに『キノの旅』も有名です。夜は野宿をしたり、見知らぬ街の宿に泊まったりするのです。旅をする創作作品というのは、これはもう数え切れないほどあるのでしょう。ただ、現実の世の中に旅をしている人なんてそうそういません。みんな安住の地を約束されながら、学校や会社を行き来する数学的帰納法のような毎日を送っているのです。僕は、旅というのに憧れました。初めて、長い旅行をしたというのは、おそらく大学二年の夏だったと思います。夏休みの天文部の合宿に、フォロワーさんに会いに行く東京遠征をくっつけて、7泊8日ほどの日程の旅行をしました。旅行もこれほどの日程ともなると、途中で衣類を洗濯せざるを得ず、コインランドリーを求めて右往左往したものでした。で、コインランドリーの存在と使い方を覚えてからは、「おお、これは無限に家に帰らなくてもいいんじゃね」と思うようになりました。ジプシーとして、定住地を持たず、21世紀の松尾芭蕉として生きていく、そんな道にも憧れました。もちろんそんなことはなく、予定通りの日に帰路についたわけですが。ただ、今でもたまに遠方から学生が遊びに来て「いつ帰るの?」と聞いて、「いつでも」とか「まあ最長今週いっぱいは適当に」みたいな答えが返ってくると、「ああ、旅してるな」と思うわけです。アウトドアで活動的と思われてる僕でも、やっぱり安住の地である家を持っているというのは大きく、何だかんだで旅なんかに出るより、家に帰ってるほうが安心する性質なのですが、それでも、というか、だからこそ、旅に出るのに憧れるのかもしれません。

*1:長崎県端島のこと。かつては炭鉱で栄え、小さな島に人口5000人を誇る高密度都市として発展したが、閉山により島全体が廃墟になった。潮風にさらされ、かつての賑わいを決して取り戻すことはないという烙印を押されながら、無骨にして荘厳なかつての栄光を偲ばせるのに十分なコンクリート建造物が林立する。