着ぐるみさんにキスはいつからするようになったのか

 本日は、お題箱に投げられていたこちらのお題から。すっかり忘れ去られていただろうと思っていて、もっぱら自分のネタ帳として利用していたお題箱に、まさかお題を入れてくれる方がいるとは。ありがたい話である。

 

 さて、着ぐるみさんにキスの話であるが、実を言うと、これは僕が美少女着ぐるみという業界の門戸を叩いたときまで遡ることができる。僕がまだ幼気な少年だった頃、「死ぬまでに一度は着ぐるみを見てみたい、あわよくば着てみたい」などとTwitterで言っていた僕に、なんと声をかけてくれた方がいたのである。今でこそ、こういう行為は忌避されるところであるが、当時はそんな僕にも声をかけてくれる人がいて、今よりも牧歌的な時代でもあったのだ。

 

 その方との邂逅は、宅オフでサシオフだった。今考えてみると相当のVIP待遇である。その方と1時間か2時間ばかしの世間話のあと、別室で着替えてきて――"召喚"してくれたのである。ストリートフェスタなどで遠目で見たことはあれど、独占的な形でこんなに身近に着ぐるみを見れるという機会を設けてもらった僕は、それはもう初心者全開で、照れまくって目は合わせられないしどろもどろという初心な醜態を曝してしまったようである。それに気を良くしてなのか面白がってなのかは定かではないが、思考回路ショート寸前の僕に、あろうことかその着ぐるみさんは、僕にキスしてくれたのである。

 

 今でこそ「はぁ……中の人は男性……」などというフレーズを手垢のついたように使っているが、当時はまだ性別の転倒という着ぐるみの原始的な魅力をうちに秘めて感じていた。「あ……僕、やばい今、目の前の美少女にキスされた……でも、ああ……、、その美少女の中に入っているのは男性なんだよな? ああー、今僕もう戻れない橋を渡っている……」。頭の中と目の前はぐるぐる。着ぐるみの不思議な魅力に取り憑かれ、今思うと、この時点で僕のカルマには逃れられない楔が打ち込まれた気がする。

 

 というわけで、僕にとって着ぐるみにキスをするということは、僕に着ぐるみのいろはを教えてくれた時点で、刻み込まれたことだったので、殊更着ぐるみさんにキスをすることは、特に業が深いだとかそういう印象は抱いていない。むしろ最も原始的な愛情表現だと思うし、もっと言えば股間のおさわりだとかなんだとかする前に、そういう愛撫表現があって然るべきだろうとさえ思っている。

 

 僕にとって着ぐるみさんにキスをするということは、おそらFRPの"味"をしめたときから、不可分だった。それが証拠に僕にまだあやめ面しかいなかった時代ですら、他人に着せたときによくキスをしていたことを覚えている。普段は無機質で冷たいFRPの素材の温度であるが、中に人が入ることで吐息で内部温度が上昇し、キスをするとちょうど人肌のような温度になっているのが分かるのが好きだった。

 

 今では僕が中の人で、僕の着る着ぐるみさんを見て照れているのが嬉しくて面白くて、僕が最初にそうされたように自分からキスをすることもある。フェチシズムと業の再生産である。生殖活動を全否定し、少子化に加担する日本国民の敵のような行為をしているのである。

 

 なお、何をとち狂ったのか、ここ最近僕の師匠は、もはや着ぐるみなしで、素の状態でキスをしてくるようになってきてしまったが、それはまた別のお話。