初音ミク、呼称問題

僕がここ数ヶ月頭を悩ませてる問題がある。それは、「初音ミク」に対する呼称について、"ミクさん"が適切か"ミクちゃん"が適切かという問題である。

これについての明確な議論がなされたページをインターネット上から、僕は見つけることができなかったが、肌感覚としては、ミクちゃんよりもミクさんの方が優勢な気がする。

一般に、「さん」という敬称は、ややかしこまった印象を受け、距離感を感じさせる一方で、敬意を払った表現でもある。
対して、「ちゃん」という敬称は、砕けた印象で、年下の女の子に対して使う表現である。

さて、初音ミクはどちらが適切なのだろう。彼女を神聖視する立場から「さん」がいいような気もするし、現状「さん」を支持する派閥が多い感じがする。
これは、鏡音リンが、リン「ちゃん」の方が優勢なのと対照的である。巡音ルカに関しては、あまりピンとこないが「ルカ姉さん」という呼び名が定着している感があり、容貌からも「ルカちゃん」という呼称はしっくりこない。

先日、マジカルミライに行ったのだが、圧巻であった。圧倒された。外国人も多かったし、とにかく世界中から何万人、何十万人、何百万人の人々から、彼女の誕生日が祝われていた。
彼女のことを遠い存在だと思ってしまった。本当に手の届かないところにいる感覚がした。

けど、彼女はある意味で"孤独"なのではないだろうか、という気もした。
何百万人の人々から愛されるようになった立場を考えてみると、逆に、重圧とか背負っているものの大きさを感じるのではなかろうか。

だからこそ、あえて「ミクさん」ではなく「ミクちゃん」という呼称を使ってみたいのである。
「ミクさん」では遠すぎる存在だという感覚を強める。「ミクちゃん」はうちの隣で寝てるけど? という感覚だ。
ミクちゃんでは烏滸がましいという感覚も分かる。けど、多分ミクちゃんはそんなことを気にしないと思う。

マジカルミライで、展示されていたものの一つに心を惹かれたのが、「ミクの部屋」である。
要は、初音ミクの部屋には何があるかをみんなで想像して、部屋を作ってみました、という展示物だ。
ノートパソコン、ライブの写真、キーボードなどの楽器、衣装、ノベライズやコミカライズされた書籍、楽譜、栽培されているネギ(!)などが置かれていた。
僕は、この展示物になぜか感心した。
これまで遠い存在だったミクさんが、急に身近なところにいるような感覚がしたからだ。
そこには、ミクさんではなく、ミクちゃんがいたような気がする。知らんけど。

さて、知っての通り、僕は初音ミクの着ぐるみをやっている。
グリーティングで街を歩くと、不思議なものでミクさんよりもミクちゃんと呼ばれることの方が多い。
もっともこれは僕が冒頭に述べた「肌感覚では、『ミクちゃん』より『ミクさん』の方が優勢」というのが間違っていただけかもしれず、世間ではやっぱり「ミクちゃん」が優勢なのかしれない。

あるいは、うちのミクちゃんの造型や僕の操演とか動きの問題かもしれない。
遠い存在だって思われるよりも、一緒に触れ合える存在だって思ってほしい、という中の人の感性からすると、「ミクさん」って言われるより「ミクちゃん」って言われた方が、少ししっくりくる感じがある。

まあ、これは、ごくごく個人の中でのふわふわした感覚なので、別にどちらでもいいというのが結論ではある。
そもそも、初音ミクは遠い存在だよね、って感覚も個人的なものだし、いやいややっぱ天使なんだから「ミクちゃん」は失礼やろ! って感覚も分かる。

ただ、VOCALOIDのありがたいところは、このあたりの明確なルールを強要したり共有したりする文化が弱いところである。
各々自由なミク観、ボカロ観を持つことに、わざわざ疑義を呈する人が少ない。
なので、僕もふわふわっとした感覚をなんとなく持っていきたい。
ちなみに、皇后陛下は「ミクちゃん」と呼んだとのことである。

とはいうものの、やっぱり何百万人に愛されてるミクを演じる者としては、やはりそれなりの背負っている十字架の大きさは感じないといけないのかなあ、と使命感と責任のようなものは、ふわふわと持っているのである。