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コミケを振り返る

 僕が高校生の頃は、コミケというものは遠い東の国で行われている同人誌即売会であるということは、インターネット上で得た知識として知っていた。だが、TOKYO、それは遠い国。自分には縁もない場所だと思っていた。
 しかし、高校2年の冬、当時文芸部に属していたオタクな友人とともにコミケに行ってみたいという話になり、二人で初めて夜行バスという乗り物に乗り、伝説の地東京へ赴いたのであった。初めての参加であるにもかかわらず、友人は目当てのサークルがあるのだといい、朝7時頃から並んでいたのだから、なかなかの強者であった。
 かくして、僕も一緒に買ったのがうつらうららかの「うつらごちゃまぜ」であった*1。僕が垢転生する前のTwitterでは、そのサークルの看板娘であるあやなちゃんというオリジナルの女の子をアイコンにしていたので、古くからの知り合いは知っている人も少なくないだろう。
 夜行バス日帰りという弾丸行程だったので、とにかく夕方には脚が棒になったことを今でも強く覚えている。お上りさんよろしく秋葉原の街を見物して帰ったというのだから、おめでたい。なんせ山手線に乗って、テレビでしか聞いたことがない地名だ!! と騒いでいたのだから、田舎者丸出しであった。

 さて、それから数年後。僕は、乗り鉄が趣味と一つとなったこともあり、腰の軽さは一般人に驚嘆される程度なり(ただし、着ぐるみクラスタというくくりで見れば、それほど大したことはない)、東京は暇さえあれば比較的気軽に行ける場所になった。そして、あのコミケでさえも行こうかと思えばいける場所になった。もっとも、あのときのような朝7時から並ぶというようなエクストリームな参加の仕方はしなくなった。

 過去2回、コミケでは売り子をしたことがあるというのだから驚きだ。高校時代では、オタク趣味で漫画も描いていた先輩が先にサークルデビューするに違いないと囁かれていたものだが、あろうことかその先輩は未だにコミケに一般参加したことさえないという。

 過去2回のうち一回は、松さんこと市川松三郎さんのサークルでの売り子だ。猫の写真集というコミケ全体で見ると、ややマイナーなジャンルではあるが、かなり多くの人が買って行ったと思う。サークルでは、卯月くんと一緒に売り子をしていたのだから、尚更のこと歴史を感じる。彼は今、もっぱら九州から出てこなくなったし、我々童貞着ぐるみ界隈には振り向きもせず、女性レイヤーさんとの親睦を深めている。僕は、彼のことを出会い厨と揶揄しているが、もっとも、着ぐるみに関心は持つもののどう絡んでいいのか分からないレイヤーさんは多そうなので、そういった人たちと交流を持ち、着ぐるみのポジティブキャンペーンを結果的に行っている彼は、少し応援している。

 残る一回は、師匠であるよっきーさんのサークルである。それも、着ぐるみでの売り子だったのだから、なかなか強者であった。言うまでもないが、着たのは椛である。ただ、残念なことに鉄道ジャンルでの出展で、着ぐるみ同人誌は副だったので、着ぐるみコスプレでの売り子は、やや場にそぐわなかっただろう。ちょっとびっくりされてる方が多かった。とは言うものの普段見慣れない着ぐるみに感激している方も少なからずいた。また、このコミケでじゃんまくんを沼に落としたらしいことは特筆に値するだろう。このとき、同人誌を買った方には握手していったのだが、じゃんまくん曰く、このときに握ってもらった椛の手が忘れられないそうだ。椛の手は僕の手……。

 コミケでの着ぐるみはなかなかに過酷で、そこまで温度は高くなかったものの、会場の滞留した空気と、強烈な湿度はじわじわと中の人の体力を奪い、累計3時間半程度でギブアップした。師匠の前でギブアップという弱音を吐くことは大罪である。知らんけど*2
 ちなみに、コミケでは有名な面外しルールがあり、移動時は面を外すことが強制されるという被り物レイヤー泣かせな決まりがある。面を外すとその面で手が塞がり、別の危険が生じているのだが、まあそれはいい。僕はこのルールは賛成というか、面白いと思っている。というのも、普段年間何十回もイベントに参加していて、その中には子どもと触れ合うことのできるイベントも多いのだが、当然そんな街中で面を外すことなどできない。それこそ緊急事態、救急車を呼ぶ一歩手前まで被り続ける、すなわち女の子で居続けるつもりだ。「絶対に面を取らないでくださいね」などと釘を刺されるイベントさえある。つまり、人前で面を外すということはタブーでありやってはいけないことなのだ。コミケ会場ではそのタブーが推奨され、強制される場所なのだ。和室に案内されたら「ここの障子全部破ってください」、お風呂に案内されたら「入浴剤まるまる一缶入れちゃってください」、共産党の事務所に案内されたら「ここでオスプレイ配備賛成と叫んでください」と言われるような気持ちである。普段普通はできないことが堂々とできる、これってちょっと快感じゃないですか。どうせコミケなんて同志の集まりだ。マスクオフが見られたところでなんぼのもんじゃい、と。

 そういや、どざいさんが興味深いことを言っていた。「マスクオフルールに文句を言うやつは、着て可愛いやつだけにしろ、着てもおっさん脱いでもおっさんだったら、ビフォービフォーじゃねえか、俺にビフォーアフターを見せろ」。"着てもどざいさん"と言われた彼が言うと非常に説得力がある。

*1:当時新刊で買った初めての同人誌が、今見たら中古で100円だった。時の流れを感じる。

*2:実際は、弱音を吐かず本当に最後に着続けて、倒れる方がよほど迷惑で大罪である